歯科診療中や治療後に患者とのトラブル(治療ミスの指摘、クレーム、損害賠償請求など)が発生した場合、適切な対応を迅速に取ることが重要です。歯科の医療訴訟は決して珍しくなく、実際、令和3年に地方裁判所で終結した医療訴訟820件のうち歯科が100件と、内科に次いで第2位を占めています。
本ガイドラインでは、患者トラブル発生時の基本的な法的対応の流れと注意点、リスクマネジメントのポイントについて、歯科医師向けにわかりやすく整理します。
1初動対応の基本
- 患者の安全を最優先に、冷静に対処する。
- 患者の訴えを傾聴し、共感的な姿勢で受け止める。
- 事実関係を整理して説明するが、過度な謝罪や責任の明言は避ける。
- 感情的な対応や一方的な否定は控える。
2患者への説明と謝罪
- 事実経過や現状を率直かつ正確に伝える。
- 推測や憶測を避け、わかっていることのみ説明する。
- 患者の質問にも丁寧に応じ、信頼回復を図る。
- 必要に応じて説明内容を記録し、文書化も検討。
3記録の重要性と証拠保全
- カルテに事実を経時的に正確に記録する。
- 説明内容や患者の反応も詳細に残す。
- 物的証拠や関連資料の保全も忘れずに。
- 記録の改ざんや削除は絶対に行わない。
4保険の適用と報告
- 歯科医師賠償責任保険に加入している場合は速やかに報告。
- 患者に補償の約束を勝手にしない。
- 保険会社が示談対応を代行してくれることも。
- 未加入の場合は早期の弁護士相談を推奨。
5弁護士への相談
- クレームが長期化・深刻化する前に相談を。
- 医療案件に強い弁護士を選定。
- 歯科医師会などの制度も活用可能。
- 代理交渉や訴訟対応も依頼可能。
6示談交渉と訴訟リスク
- 保険会社や弁護士を通じて冷静な示談交渉を。
- 示談書を作成し、今後の請求権放棄も明記。
- 訴訟に至ると長期化・公的記録化のリスクも。
- できる限り訴訟前に解決を図るのが望ましい。
7日頃からのリスクマネジメント
- 説明と同意(インフォームド・コンセント)の徹底。
- 信頼関係を築く日常的なコミュニケーションを重視。
- 同意書や契約書でトラブルを予防。
- スタッフ教育や院内マニュアルで体制整備を。
- 保険加入や顧問弁護士契約もリスク対策に有効。